調査と研究

調査と研究

マラソン中の突然死

●実技型運動負荷心電図

マラソン中の突然死予防の為、運動負荷心電図の有用性がクローズアップされている。しかし、果たして従来の運動負荷試験でその予防効果があるのだろうか。

@ 従来の運動負荷試験の目的は冠動脈疾患(虚血性心臓病)の診断、冠動脈疾患の治療効果の判定、心疾患のリハビリテーションなどが主である。健康人のスクリーニング目的には適していない。簡単なマスター2階段試験では負荷が不十分である。
A 外見上健康人の運動負荷試験では偽陽性が多い。
B マラソンは野外の長時間のスポーツである。室内の短時間運動の負荷では予測しえないような異常が起きる可能性がある。外界の気象条件が違ったり、レースになると日頃のトレーニングとは違う強い負荷やストレスが生じたりして室内の実験とは体力的、精神的に条件が異なる。
C マラソン中の突然死の症例をみると、スタート直後は少なくて、ゴール前後とか、かなり長時間走行後に起きている例が多い。よって、短時間運動負荷試験では発見できないような異常、原因により突然死すことが考えられる。
D あくまで潜在性の心疾患を発見するのが主目的となるため、中高年者にとって激しいスポーツ(フルマラソン等)を開始する前の運動負荷試験には適しているが、ベテランランナーの突然死の原因究明、予防には結びつかない可能性がある。最近の症例をみても、10年以上の経験者であり、何回もマラソン大会に参加している人が亡くなっている。そのようなベテランランナーになればむしろ虚血性心臓病予防にランニングが役立っていることが多い。
E トレッドミルはマラソン中の運動に近似しているが、マラソン時のようなキックはほとんどなく、足をピョンピョン飛び跳ねている運動に過ぎず、マラソン中の運動とは微妙に異なる。

注@・・・最近の研究では、心筋梗塞や心臓死の発症の機序には冠動脈硬化巣(プラーク)の不安定化、トリガーによるプラークの破裂と血栓形成が関与していると考えられ、運動負荷心電図では検出できない程度の冠動脈硬化巣からでも発症することが知られている。スポーツ中の急性虚血発作を生じた例の冠動脈所見では、冠動脈病変はプラーク破裂によるものが推定され、事前の発見は困難であったとする報告もある。このような理由から米国では、スクリーニング検査としての運動負荷心電図を一般的には勧告していない。
注A・・・アメリカスポーツ医学協会の運動実施前に運動負荷試験を行うガイドラインの第4版(1991年)では、、冠危険因子2個以上持つ場合(高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙)、あるいは男性40歳以上、女性50歳以上で活発な運動を希望する場合に運動負荷試験を行うことを勧告している。

以上のような理由から私は従来の運動負荷試験ではマラソン中の突然死を予防する為の検査としては不十分であると考えた。やはり一番適しているのは実際のスポーツ中にどんな異常が起きているのかを解明することである。幸いマラソンは他の参加者との接触は少なく、転倒したりする危険性も少ない。身体の運動も一定である。このような理由から走行中の心電図を記録することが可能であると判断した。ただし、従来の心電計はいくら小さく、軽くなっているとはいっても、走るには邪魔であり負担になる。しかも胸部には電極を数ヶ所貼り付けねばならない。この難点を解決してくれる新しい心電計が解発された。重さは40gで、外形は幅49.5mm、奥行14.7mm、高さ44.5mmの超小型心電計である。電極も従来の金属製のものとは異なり、ケーブルレスのT型ディスポ電極である。

なお、この心電計は運動負荷試験のために開発されたものではない。ホルター心電図(24時間心電図)の最新型で、被験者がより楽に快適に検査を受けることが可能になった。従来の心電計は小さい弁当箱のような機械をウエストポーチに仕舞って体にぶらさげていた。これだと日常生活は問題ないが、運動するとなるとかなり不自由である。今回の心電計はこの運動時にも対応可能となった。よって、運動中の心電図を見ることが可能になり、マラソンレース中の負荷心電図も記録できることになった。


心電計の本体

4ヶ所に電極と心電計本体
を装着した例


上に示したのが最新型コンパクトサイズのデジタルホルター記録器(F社製)である。電源は単4アルカリ乾電池1個でOKである。誘導は双極2チャンネルである。チャンネル1はCM5誘導、チャンネル2はNASA誘導。総量は電池を含めて約40gである。

この心電計を装着して、マラソン中の心電図を解析し異常を発見することが有用であると考えた。従来の単一水準定量負荷や多段階運動負荷試験とは異なる新しい運動負荷試験である。私はこれを「実技型運動負荷試験」と勝手に命名した。

【最新型ホルター心電図による実技型運動負荷試験の長所】

@ マラソン中の全運動中や運動後の心電図を取ることができる。
A 一度ならずに何回も再検査が容易である。・・・検査が煩雑でない。
B 種目に関係なく、2kmから100kmの大会まで可能である。
C 実戦に即した検査なので、その結果に説得性がある。レース中に異常が発見されれば、次回のレースの対策ができる。
D 長時間型の運動負荷試験ができる。・・・24時間の運動中、休止中の記録が取れる。
E 楽しみながら検査ができる。病院内の検査が苦手な人でもこの検査は楽しみながらできる。

【短所】

@ 心臓病のスクーリーニング検査としては有用でない。
A 異常があった場合でも検査終了後解析しみないと結果がわからない。
B 高温多湿の天候下(発汗大量)では心電計が機能しないことがある。

【問題点と今後の課題】

@ 長時間の運動に耐えれるように心電計をしっかり固定しなければきれいな記録が取れない。
A 今後の課題として、危険な不整脈を探知して知らせるアラーム機能があればより有用となる。

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