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たこつぼ型心筋症の2例

On 2006年3月24日, in 症例, by 佐藤

症例1 Y.K. 70歳

現病歴:
生来健康であった。以前より健康診断にて高脂血症を指摘されているが、特に治療受けていない。平成18年3月24日近くの集会所にて約30分間「胸がキューン」となる症状が出現。翌日になってもまだ軽い胸苦が続いているため、当院受診した。
心電図:
aVL、V1~V3にて軽度のST上昇、冠性T波様変化が見られ、V4~V6にて2相性T波あり

虚血性心臓病を疑い県立中央病院を紹介する。
3月25日中央病院にて緊急冠動脈造影などの検査を受ける。
冠動脈には有意狭窄病変は認めず、左室造影にて心基部の収縮能は保たれているが、心尖部の収縮能が高度低下していた。以上より「たこつぼ型心筋症」との診断を受ける。
血液検査(3月25日):
CPK 135、GOT 27、LDH 253、CHO 282、HDL 87.9、TG 96、血糖113、CRP 0.0、WBC 5400、BNP 135

3月25日の心電図

3月25日の心電図

冠動脈造影

冠動脈造影

冠動脈造影

冠動脈造影

 

 

症例2 I.K. 64歳

現病歴:
C型肝炎にて強力ミノファーゲンの注射等の治療を続けていた。平成18年3月22日整形外科に通院していた息子さんが自宅にて突然死される。この夜急に胸内苦悶が出現し、救急病院を受診している。この病院にては心電図検査は行っておらず、血圧上昇を指摘されている。翌日当院にて同様の症状を訴える。心電図、超音波検査を行い、心電図異常を認めるがUCGにて壁運動比較的良好であり(心尖部は未確認)、症状も軽いためそのまま経過観察とした(この時精神的ショックの影響が大いにあると判断した)。抗不安剤を頓服投与して、そのまま順調に経過していた。4月8日心電図を再検査すると、冠性T波様変化が広範囲に見られたため、県立中央病院を紹介する。

心電図(3月23日):
軽度ST上昇が V1~V6、Ⅱ,Ⅲ、aVFと広範囲に認められる
心電図(4月8日):
冠性T波様変化が V3~V6、2相性T波様変化がV1、V2、T波の陰性化がⅠ、Ⅱ、Ⅲ、aVFに認められる
血液検査(4月8日):
CPK 133、GOT 41、LDH 248、CHO 169、HDL 42、TG 179、血糖 99、WBC 5900、

4月11日県立中央病院にて冠動脈造影等の検査を受ける。
冠動脈に有意な異常所見はなく、左室造影も問題なしとの返事あり。病歴と心電図変化から「たこつぼ型心筋症」と診断を受ける。

3月23日の心電図

3月23日の心電図

4月8日の心電図

4月8日の心電図

冠動脈造影

冠動脈造影

冠動脈造影

冠動脈造影

 

☆たこつぼ型心筋症の診断

① 心筋梗塞様症状と心電図変化があるにもかかわらず、冠動脈造影検査では有意な異常所見を認めない。
② 心尖部付近に高度の収縮力の低下、心基部の過剰収縮を認める(この形態がタコツボに似ているので命名された)

☆原因(確定されていない

① 多枝冠動脈のスパスム説
② 微小循環障害説
③ カテコールアミン心筋障害説

☆考察と反省

この病気は高齢の女性に多いといわれている。当院の2例も女性であるが、2例目は64歳とその中では若い方である。感情ストレスなどが重要な誘発因子といわれているが、2例目は息子さんが突然死されるという不幸な出来事の当日に発症している。1例目も大きなストレスはなかったが、当日集会所で役員になっていて発言しなければならないという小さなプレッシャーがあったようである。2例とも急性心筋梗塞ほどの強い胸内苦悶はなかったようであるが、症状は長く続いている。このような症状があれば心電図をチェックする必要がある。2例目は救急病院を受診したが、心電図検査を行っていない・・・ただし、当院でもわずかのST上昇がnormal variantなnonーspecific ST上昇と判別できなかった(反省)。しかもこの時、診察が混んでいたのでUCGも丁寧に心尖部見ていなくてそのまま放置してしまった(大いに反省)。

☆経過

1例目の70歳のY.K.さんはその後症状なく、良好に経過している。心電図波形も正常に近づいている。

4月19日の心電図 (第1例 Y.K. 発症25日目)

4月19日の心電図 (第1例 Y.K. 発症25日目)

胸部誘導の陰性T波が改善しつつある

 

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